「戦争は今なお日常生活の一部」

ヤン・ヘイツマ
(オランダ王国臨時代理大使)

 今日は、第2次世界大戦中、日本で亡くなった旧連合国捕虜たちの悲惨な運命を、この墓地で追悼する一〇年目にあたります。こういった何万人にも上るすべての犠牲者のうち、八七一人がオランダ人でした。この墓地で記憶されているオランダ人は、海上で魚雷によって沈没した船に乗っていた人々ですが、オランダ人捕虜のほとんどは九州水巻附近の炭鉱で労働中に亡くなりました。

 戦後六〇年になりますが、オランダの多くの人々にとって、戦争は今もなお日常生活の生々しい一部であります。戦争を自ら意識的に体験した人々は今や高齢となり、しかも、彼らのほとんどは故人となってしまいました。しかしながら彼らの子供や孫たちは、多くの場合、父や祖父に起こったことに非常に心を動かされるのです。

 過去何年にもわたる日本政府の招待によって、戦争で亡くなった兵士や民間人の遺族の多くが日本を訪れることができました。彼らはこの墓地にも参りましたし、また戦没者が記憶されている他の場所も訪れました。

 彼らはまたこの国が戦後いかに大きく変わったかを自分の目で見ることができました。わたしたちは過去に起こったことを絶対に忘れるべきではありませんが、同時にまた未来に目を向けなければなりません。幸いにも、オランダと日本の関係は極めてよく、過去数十年間に、何千何万もの両国の若者がたがいに訪問し合い、その結果両国民の間には強い絆が築かれています。

 終わりに、この意義深い追悼式を開催してくださる方々と、この美しい墓地を管理して下さる方々に心から感謝申し上げたいと存じます。


『敗戦60年 戦争はまだ終わっていない 謝罪と赦しと和解と』(2005年8月発行)より、編者である雨宮氏の許可を得て転載させていただきました